歯を失った際の治療選択肢として、インプラント治療は多くの患者さんに選ばれています。

しかし、「インプラントはどれくらい持つのか」「長持ちさせるためには何をすればいいのか」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 

インプラントは適切なケアを行えば長期間使用できる治療法ですが、その寿命は患者さん一人ひとりの状態や生活習慣によって大きく異なります。

 

私は歯科医師として10年以上の臨床経験があり、多くのインプラント治療に携わってきました。この記事では、インプラントの実際の寿命と長期維持のための秘訣についてお伝えします。

 

インプラントの平均寿命とは?科学的根拠に基づく実態

「インプラントは一生もの」と思われている方も多いかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか?

 

厚生労働省の調査によると、インプラントの10年生存率は上顎で約90%程度、下顎で94%程度とされています。これは、適切な治療とメンテナンスが行われた場合の数値です。

 

つまり、10年経過しても9割以上のインプラントが問題なく機能しているということです。

さらに、スイスのベルン大学が行った研究では、ストローマンインプラントを使用した患者の10年後の生存率は98.8%という高い数値が報告されています。

 

一般的には、インプラントの平均寿命は「10〜15年以上」と言われていますが、適切なケアと定期的なメンテナンスを継続すれば、20年以上快適に使用できる方も珍しくありません。

 

では、インプラントの寿命を左右する要因とは何でしょうか?

 

インプラントの寿命を縮める主な原因

 

インプラントの寿命に大きく影響する要因をいくつか見ていきましょう。

最も重要な要因は「インプラント周囲炎」です。これは歯周病に似た病気で、インプラント周囲の組織に炎症が起こる状態を指します。

 

インプラント周囲炎とは

 

インプラント周囲炎は、インプラント周囲の歯肉や骨に炎症が生じる疾患です。初期段階では自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行してしまうことが特徴です。

 

天然歯と違い、インプラントには歯根膜という組織がありません。歯根膜は歯と骨の間でクッションの役割を果たすだけでなく、細菌に対する防御機能も担っています。

 

この防御壁がないインプラントは、一度細菌に感染すると炎症が骨まで急速に広がりやすいという弱点を持っています。

 

インプラント周囲炎の主な症状

 

  • 歯ぐきの腫れや出血
  • 口臭や膿の排出
  • インプラントのぐらつき
  • 噛んだときの痛みや違和感

 

これらの症状が現れたら、インプラント周囲炎が進行している可能性があります。早期に歯科医院を受診することが重要です。

 

その他にも、喫煙、糖尿病、歯ぎしりなどもインプラントの寿命を縮める要因となります。

特に喫煙は血流を悪くし、インプラント周囲の組織の治癒を遅らせるため、インプラントの成功率を下げる大きな要因です。

 

インプラントを長持ちさせる5つの秘訣

 

インプラントを長期間快適に使用するためには、日々のケアと定期的なメンテナンスが欠かせません。

ここでは、私が臨床経験から導き出した5つの秘訣をご紹介します。

 

1. 徹底した毎日のセルフケア

 

インプラントの周囲は特に丁寧に清掃することが重要です。歯ブラシは柔らかめのものを選び、インプラントと歯肉の境目に45度の角度で当て、小刻みに優しく磨くのがコツです。

 

歯間ブラシやデンタルフロスも積極的に使用しましょう。インプラントの構造は複雑なため、歯ブラシだけでは取り除けない汚れがあります。

 

私の患者さんには、「インプラントは自分の歯よりもさらに丁寧にケアする」ことをお伝えしています。天然歯よりも細菌感染に弱いため、より注意深いケアが必要なのです。

 

2. 定期的なプロフェッショナルケア

 

セルフケアだけでは取り除けない歯石や細菌の塊(バイオフィルム)は、歯科医院での専門的なクリーニングが必要です。

 

インプラント治療後は、3か月ごとの定期検診をお勧めします。

定期検診では、インプラントの状態だけでなく、噛み合わせのチェックや、必要に応じてレントゲン撮影を行い、骨の状態も確認します。

 

これにより、問題が小さいうちに発見し、対処することができます。

 

3. 歯ぎしり・食いしばり対策

 

歯ぎしりや食いしばりは、インプラントに過度な力をかけ、寿命を縮める原因となります。特に就寝中の歯ぎしりは自分では気づきにくいものです。

 

歯ぎしりがある方には、就寝時にマウスピース(ナイトガード)の使用をお勧めしています。これにより、インプラントへの過度な負担を軽減することができます。

 

4. 生活習慣の改善

 

喫煙や過度の飲酒、不規則な食生活などは、インプラントの周囲組織の健康に悪影響を与えます。特に喫煙は、インプラント周囲炎のリスクを高めることが多くの研究で報告されています。

 

また、糖尿病などの全身疾患がある方は、適切な血糖コントロールを行うことも重要です。全身の健康がインプラントの寿命にも大きく影響するのです。

 

5. 異常を感じたら早めに受診

 

インプラント周囲に違和感や痛み、出血などの異常を感じたら、早めに歯科医院を受診しましょう。初期段階であれば、比較的簡単な処置で改善できることも多いです。

 

「様子を見よう」と放置することで、症状が悪化し、最終的にインプラントを失うリスクが高まります。

 

私の臨床経験では、定期検診を欠かさず受けている患者さんのインプラントは、明らかに長持ちする傾向にあります。

 

インプラントの寿命が近づくサイン

インプラントの寿命が近づくと、いくつかの兆候が現れます。早期に発見することで、適切な対処が可能になります。

 

物理的なサイン

 

インプラントがぐらつく、違和感がある、噛むと痛みを感じるなどの症状は、インプラントの安定性に問題が生じている可能性があります。

 

特に、以前はなかった動揺感を感じる場合は、インプラントと骨の結合(オッセオインテグレーション)が弱まっている可能性があり、早急な対応が必要です。

 

見た目のサイン

 

歯ぐきの退縮(下がること)により、インプラントの金属部分が見えるようになることがあります。これは、周囲の骨が吸収されている可能性を示しています。

 

また、インプラント周囲の歯ぐきが赤く腫れている、出血しやすい、膿が出るなどの症状も、インプラント周囲炎の兆候です。

 

機能的なサイン

 

噛み合わせの変化や、食べ物が挟まりやすくなるなどの症状も、インプラントに問題が生じている可能性があります。

 

また、口臭が強くなる、金属の味がするといった症状も、インプラント周囲の感染を示唆するサインです。

 

これらのサインに気づいたら、すぐに歯科医院を受診することをお勧めします。早期発見・早期治療が、インプラントを長持ちさせる鍵となります。

 

インプラントの寿命が来たら?再治療の可能性

 

インプラントの寿命が来たと判断された場合、どのような対応が可能なのでしょうか?

 

インプラント上部構造の交換

 

インプラント本体(骨内に埋め込まれた部分)は問題なく、上部の人工歯(クラウン)だけに問題がある場合は、上部構造のみを交換することで対応できます。

 

上部構造の素材や設計によっては、10年程度で交換が必要になることもあります。これは比較的簡単な処置で、短期間で完了します。

 

インプラント本体の再埋入

 

インプラント本体が機能しなくなった場合は、抜去して新たなインプラントを埋入する必要があります。

の場合、骨の状態によっては骨造成(GBR)などの追加処置が必要になることもあります。

 

骨の量が不足している場合は、サイナスリフトなどの特殊な技術を用いて骨を増やしてからインプラントを埋入することもあります。

 

高齢期のインプラント対応

 

高齢になってもインプラントは継続して使用可能です。むしろ、しっかり噛めることで食事の質が保たれ、栄養状態や全身の健康維持にも貢献します。

 

ただし、高齢になるとセルフケアが難しくなる場合もあるため、家族のサポートや、より頻繁な歯科医院でのメンテナンスが重要になります。

 

私の臨床では、80代の患者さんでもインプラントを活用し、快適な生活を送られている方が多くいらっしゃいます。

年齢よりも、口腔内の状態や全身の健康状態を総合的に判断することが大切です。

 

まとめ:インプラントを長く使うための心得

 

インプラントの寿命は、適切なケアと定期的なメンテナンスによって大きく左右されます。

平均的な寿命は10〜15年以上とされていますが、中には20年以上問題なく使用されている方も多くいらっしゃいます。

 

インプラントを長持ちさせるためのポイントをまとめると:

  • 毎日の丁寧なセルフケア(歯ブラシ、歯間ブラシ、フロスの活用)
  • 3か月ごとの定期検診とプロフェッショナルケア
  • 歯ぎしり・食いしばりへの対策(必要に応じてナイトガードの使用)
  • 喫煙や過度の飲酒を避け、全身の健康管理に努める
  • 異常を感じたら早めに歯科医院を受診する

 

インプラントは「入れたら終わり」ではなく、継続的なケアが必要な治療法です。

適切なケアを続けることで、長期間にわたって快適な咀嚼機能と美しい笑顔を維持することができます。

 

インプラント治療をご検討の方、すでにインプラントをお持ちの方は、ぜひ定期的なメンテナンスの重要性を理解し、

歯科医師と二人三脚でインプラントの寿命を延ばしていきましょう。

 

インプラント治療やメンテナンスについてご不明な点があれば、お気軽に当院までご相談ください。

患者さん一人ひとりに合わせた最適なケア方法をご提案いたします。

 

江田あおば歯科・矯正歯科で、インプラントの無料相談を実施中です。お気軽にお問い合わせください。

 

監修医師

 

江田あおば歯科・矯正歯科 院長:上田 聡太

 

 

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経歴

サレジオ学院中学校・高等学校 卒業
東京医科歯科大学 歯学部 歯学科 卒業
神奈川県内 医療法人社団 歯科医院に勤務
神奈川県内 医療法人社団 歯科医院にて院長として勤務
江田あおば歯科・矯正歯科 開院

 

所属団体

日本歯周病学会 認定医
日本口腔インプラント学会
DFC(Dental Future Conference)
日本インプラント臨床研究会
中野予防歯科研修会
日本歯科医師会
神奈川県歯科医師会
横浜市歯科医師会
青葉区歯科医師会